前回の記事では、「形見である遺産を確実に受け取る方法」について書いてみました。
今回は、「債務の弁済をした後でも相続放棄ができるのか」について記事にしてみたいと思います。
債務の弁済をした後でも相続放棄ができるのか?
これについては、誰の財産から債務の弁済をしたのかによって結論がことなります。
・相続人が自己の資金で弁済した場合
この場合、相続放棄をすることができます。
相続人が自己の資金で、被相続人(亡くなった方)の債務を弁済した場合でも、民法第921条1項1号の相続財産の処分にはあたらないと判断された判例があるからです。
【福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定(家庭裁判月報51巻5号49頁)】
弁済した資金は、相続人の財産であり、被相続人の財産(相続財産)ではないということです。
・被相続人(亡くなった方)の財産から弁済した場合(遺産を取り崩して弁済した場合)
この場合は、原則、相続放棄をすることができなくなります。
まず、相続人は、被相続人の財産について3つの選択肢があります。
1.単純承認、2.限定承認、3.相続放棄です。
単純承認とは、被相続人の財産(相続財産)を相続人が、まるごと承継する結果となることです。
そして、民法第921条は、上記の1.単純承認をする気がなくても、単純承認をしたとみなされる一定の行為を規定しています。これを法定単純承認といいます。
この法定単純承認にあたる行為をすると、相続放棄はできなくなります。
被相続人の財産から弁済した場合、民法第921条1項1号の相続財産の処分に該当すると考えられ、その行為は法定単純承認事由に該当し相続放棄ができなくなるというのが原則です。
それでは、被相続人の財産から債務を弁済してしまった場合、必ず相続放棄はできないのでしょうか?
被相続人の財産から債務を弁済した場合、必ず相続放棄はできない?
被相続人の財産から弁済した場合でも、債務の性質や額によっては保存行為として法定単純承認事由にあたらないと解釈される余地もあります。
保存行為とは、財産の価値を保存し、現状を維持する行為のことです。
(物の修繕、弁済期限の到来した債務の弁済等)
どこまでが、保存行為といえるかは、被相続人の遺産の総額等および相続人の経済状況など総合的に判断することになります。
相続放棄を検討している場合において、被相続人の財産から債務を弁済してしまった時でも、諦めずに専門家に相談することをおすすめ致します。
今回は、「債務の弁済をした後でも相続放棄ができるのか」について記事にしてみました。
次回は、被相続人の遺産について、相続人ができる3つの選択肢のうちの「単純承認」について記事にしていこうと思います。
どうぞよろしくお願い致します。