「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(4)」
前回の記事では、被相続人の遺産について、「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(3)」と題して、最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言を、文字通り限定的にとらえるか(限定説という)、限定的にとらえないか(非限定説という)、の解釈について記事にしてみました。
今回は、「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(4)」と題して、「受理の審判」と「訴訟」の裁判手続きで「限定説」と「非限定説」の運用が異なるのはなぜか?について記事にしていきたいと思います。
「受理の審判」と「訴訟」とはそれぞれどの段階の裁判?
まず、「限定説」と「非限定説」の裁判実務での運用を考えるにあたり、「受理の審判」と「訴訟」が、相続放棄関係の手続きの中で、どの段階の裁判手続きなのか考えることが重要かと考えます。
そこで、「受理の審判」と「訴訟」とはそれぞれ、相続放棄関係の手続きの中でどの段階の裁判なのか検討してみたいと思います。
相続放棄関係の手続きとしては、大まかに下記の順序で進行していきます。
➀相続放棄の申述
➁相続放棄の「受理・不受理の審判」
➂受理された相続放棄についての「訴訟」
「受理・不受理の審判」とは?
簡単に説明すると、家庭裁判所において、相続放棄の申述を受理するか却下するか判断する段階の裁判と考えてください。
「訴訟」とは?
簡単に説明すると、家庭裁判所において、一旦受理された相続放棄の申述が有効か否か判断する段階の裁判と考えてください。
このように「受理の審判」と「訴訟」とでは、相続放棄関係の手続きの中でもそれぞれ違う場面の裁判であることが分かると思います。
では次に、相続放棄の「受理の審判」の段階でのその審判の効果を考えてみます。
審判の効果がわかると、なぜ「受理の審判」と「訴訟」とで、判断基準が違うのかが分かるからです。
相続放棄の「受理の審判」の段階でのその効果
相続放棄の「受理の審判」の段階においては、「相続放棄の受理が確定した場合」と「相続放棄の不受理が確定した場合」で下記のような効果の違いがあります。
・相続放棄の受理が確定した場合
申述受理の審判の効果として、相続放棄が受理された場合でも、法律上の無効原因が存在する時は、その効力について後日訴訟で争える余地があります。
この審判に不服があるのは、債権者です。
では、相続放棄の不受理が確定した場合はどうでしょう?
・相続放棄の不受理が確定した場合
相続放棄の不受理が確定した場合には、この不受理による効果を訴訟等で争う余地はもはやありません。
この審判に不服があるのは、債務者(相続人です)
例えば、債務超過を理由とする相続放棄の申述の場合、債権者としては、相続放棄の受理が確定した場合であっても、受理が確定した相続放棄の効果を別途訴訟等で争うことができます。
一方、債務者(相続人)としては、相続放棄の不受理が確定した場合、債権者からの請求・訴訟に対して、相続放棄を理由に債務を免れることができません。
このように、債権者にとって不都合な審判が確定した場合と、債務者(相続人)にとって不都合な審判が確定した場合とでは、相続放棄の不受理が確定した相続人の方が決定的で重大な影響があるといえます。(債務者には後がないのです。)
そこで、債務超過を理由とする相続放棄の申述申立ての審判において、家庭裁判所は、相続放棄の申述を受理するのが原則であって、実質的要件の欠如が明白かどうかをチェックするだけで、審理の程度も一応のものに止め、明らかに実質的要件を欠くと認められる場合を除き、原則として相続放棄の申述を受理すべしとの運用がされています。
相続放棄を受理すべしとの運用がされる審判実務においては、相続放棄の起算点の繰下げを認めたもの(相続放棄の肯定例)が多く、繰下げを認めないもの(相続放棄の否定例)が少ないのです。その理由としても、非限定説的なものが多いです。
逆に、訴訟段階のものは、相続放棄の否定例が多く、その理由は、限定説的なものが多いのです。
このように「受理の審判」と「訴訟」とでは、判断基準が違うと判断できます。
これは相続放棄の審判段階において、それぞれの当事者に不利な審判が確定した場合に、その当事者に別の道が用意されているのか否かという違いがあることに関連してるからだといえます。
では、「受理の審判」と「訴訟」とで判断基準が違うことによって、新たに何か問題が生じることはあるのでしょうか。
「受理の審判」と「訴訟」とで判断基準が違うことによって、新たに生じる問題とは?
今までの記述によると、「受理の審判」と「訴訟」とで判断基準が違うことによって、相続放棄申述段階で受理されても、後の訴訟では、家裁の審判とは異なる法解釈によって、一旦受理された相続放棄が無効とされる可能性があることになります。
しかし、これは相続放棄の申述をした相続人にとっても、相続債権者にとっても、予測がつがず、法的安定性が欠けるという問題が生じます。
この問題は、社会的実態に即して統一的に解決する方向に裁判例・運用が進んでいくことを願う事しかできません。
【相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで】についての記事は今回で最後になります。
次回、また勉強して、どんどん記事を書けるようにしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。