相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(3)

相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(3)

前回の記事では、被相続人の遺産について、「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(2)」と題して、
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とはいつなのか?
について記事にしてみました。

今回は、「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(3)」
と題して、最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言を、文字通り限定的にとらえるか(限定説という)、限定的にとらえないか(非限定説という)、の解釈について記事にしてみたいと思います。

まずは、相続放棄の具体例をあげて考えていきたいと思います。

相続放棄の具体例

例えば、相続開始直後、亡くなった方が貯金1000万円をしていたことを知っていた相続人が、相続開始から2年後に債務5000万円の保証人になっていたことを知った場合等、相続人が相続財産があることを認識していたが、多額の借財があることまでは認識していなかった場合はどうなるのでしょう?
(保証債務は、被相続人が亡くなってから長期間経過後に請求が来る場合があります。)

最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言を、文字通り限定的にとらえるか(限定説という)、限定的にとらえないか(非限定説という)、の解釈を上記の具体例に当てはめるて考えると、下記のようになります。

限定説

限定説:昭和59年判決の「相続財産が全く存在しない」との文言は、「全く存在しない」ことを信じた場合に限る。

相続人が、貯金1000万円の存在を認識している場合には、相続財産を全く存在しないことを信じた場合には該当せず(貯金1000万円の存在は認識しているため)、昭和59年判決は当てはまらないので、熟慮期間の起算点は、貯金1000万円の存在を認識した時であり、債務5000万円についての相続放棄は受理されない。(債務5000万円の存在を知ったのは相続開始後2年を経過しているため)

非限定説

非限定説:昭和59年判決の「相続財産が全く存在しない」との文言は、相続人が、一部の相続財産の存在は知っていても、通常人がそれ以外の相続財産についてその存在を知っていれば、当然相続放棄をしたであろう「債務が存在しない」ことを信じた場合も含まれる。

(積極財産は知っていたがそれを超える消極財産は存在しないと認識していた場合を含む)
相続人が、貯金1000万円の存在を認識している場合でも、相続債務である債務5000万円の存在は認識していないので、昭和59年判決は当てはまり、熟慮期間の起算点は、貯金1000万円の存在を認識した時ではなく、債務5000万円の存在を認識した時であり、それから3カ月以内に裁判所に申述すれば相続放棄は受理される。

このように、具体例に当てはめて考えてみると、「限定説」と「非限定説」では、相続放棄が認められるか否かの結論が異なってくる事が分かると思います。

では、現在の裁判実務(審判実務および訴訟実務)では、最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言について、「限定説」と「非限定説」、どちらの運用がされているのでしょうか?

相続放棄の裁判実務での運用

結論から申し上げますと、下記のとおりの運用がされていると考えられます。

「相続放棄の受理の審判の段階」
→非限定説で運用

「相続放棄受理後の訴訟段階」
→限定説で運用

ではなぜ、「受理の審判」と「訴訟」の裁判手続きで「限定説」と「非限定説」の運用が異なるのでしょう?

そこで、次回は、相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(4)と題して、「受理の審判」と「訴訟」の裁判手続きで「限定説」と「非限定説」の運用が異なるのはなぜか?
について記事にしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。