相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(2)

相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(2)

前回の記事では、「相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(1)」について書いてみました。
今回は、相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(2)と題して、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは具体的にいつなのか?から、記事にしていきたいと思います。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは具体的にいつなのか?

 前回の記事でも申し上げましたが、熟慮期間の起算点をいつと考えるかは重要な問題です。
この具体的な時期の判断については、 判例の変遷がありました。
変遷→時の流れとともに移り変わること

「大審院大正15年8月3日決定(民集5巻679頁)」
 まず、大審院の裁判では、下記の両方の事実を知った時点で3か月の期間が始まる、と判断しました。

・被相続人が亡くなったこと
・自分がその亡くなった人の相続人であるということ

「最高裁判所昭和59年4月27日判決(民集38巻6号698頁)」
 熟慮期間は、原則として大審院の裁判が判断した前記各事実を知った時から起算されると解されてきました。
 しかし、その後の最高裁の判決では、前記各事実を知って相続放棄をしなかった場合であっても、下記の両方の事情が存在する場合には、相続財産の全部もしくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識することができる時から相続放棄ができる期間は起算される、と判断してます。 (起算日例外説)

・被相続人に、「相続財産が全く存在しないと信じ」て限定承認又は相続放棄をしなかったこと(相続財産が存在しないという誤信をしたこと)
・被相続人に、「相続財産が全く存在しないと信じ」たことについて、相当の理由があること(誤信したことについての「相当な理由」の存在)

以上のように、熟慮期間の起算日の判断には変遷があり、現在では前記の昭和59年の判断が統一的な基準として裁判実務で使用していると考えられています。

では、相続財産が存在しないと誤信したことについての「相当の理由」とは、どういう事情から判断するのでしょうか?

被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたことについての「相当な理由」とは?

前記の最高裁において、「相当の理由」とは、被相続人の生活歴、 被相続人と相続人との間の交際状態、その他諸般の状況、からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があるとき、と判示しています。

具体的には、相続財産を残したとは到底考えられない状況で被相続人が亡くなったことや(被相続人の生活歴)、 相続人と被相続人との関係が従前から疎遠であること(被相続人と相続人との間の交際状態)など(その他諸般の状況)により、 相続人が相続財産の有無や内容を認識することが難しい事情(調査の困難性)をいうと考えられます。

まとめ「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは?

相続放棄の熟慮期間は、前記のとおり判例の変遷があり、59年最判以後の裁判例はこれに沿って運用されており、学説も概ねこれを支持していると言われています。

 この他に現在では、最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言を、文字通り限定的にとらえるか(限定説という)、限定的にとらえないか(非限定説という)、の解釈について議論があります。

限定説は、より相続放棄が認められ難くなります。
非限定説は、より相続放棄が認められ易くなります。

また、家庭裁判所での受理段階での判断と、一旦受理された相続放棄について争う訴訟段階の判断とで、審査基準は異なるのか?等、様々な議論があります。

 そこで、次回は、相続放棄ができる期限はある?期間はいつまで?(3)と題して、最高裁59年で判示した「相続財産が全く存在しないと信じたため」との文言を、文字通り限定的にとらえるか(限定説という)、限定的にとらえないか(非限定説という)、の解釈について記事にしていきたいと思います。

どうぞよろしくお願い致します。